正しいお嬢さんはどちら

その通り。私とあなたには何のカンケイもないわ。ただひとつあるとすれば…、いや何でもないわ。

私だってすごく好き。だけど好きであってはいけない理由があるから、あなたに好かれることも怖かった。

もし両思いになってしまったらと考えると、その先が怖かったから、あなたに好かれることが怖かった。

生きてる年数が長いほど、この辺りはどんどん複雑になりうるところなんです。どうかわかってほしい。いつかあなたにもわかる日が来るわ。

だとしても、私からあなたに近づいたことはまぎれもない事実。だからあなたも私を恨んでいるだろうし、私にあなたを恨めしく思わせたいと思って攻撃を企てるのも当然のことだと思うわ。

だけどあなたは正しすぎて私の人生をめちゃくちゃに狂わせるようなことはしない。やっぱり私のことが好きだからでしょう。私だってあなたのそういうところが好きです。

 

じゃあ、もし両思いになってしまったときのことを考えてみて。

私たちは、はじめはきっと世界中の誰よりも愛し合う関係になることでしょう。だけど、これまであなたを見守ってくれていた人はどう思うでしょう。私のような新参者にあなたを奪われたら。みんなで大切にしていたあなたが、私一人のものになったら。どれだけ多くの人が悲しみ、どれだけ大きな悲しみが私たちふたりを覆い尽くすのか、あなたは考えたことある?私はどれだけ大きな自責と後悔に苛まれることになるか、考えたことはある?

こう言うときっとあなたは、他人の言うことは気にするなと言うのでしょう。でも私は気にしないなんて到底耐えられません。みんなのことを気にせずにのうのうと、ぬけぬけとあなたを自分のものにしてしまうことなんてできません。

それに、私はもともとあなたを異性として好きになったわけではありません。今では異性としてとてもタイプだし、一緒にいられたらどんなに幸せかと考えます。だけど、もともとこのような思いよりも強かった思いが、別に存在します。

それは、あなたが人としてとても「正しい」人間だったから。羨ましいくらい正しい考えかたができて、それに見合った実力を見事に兼ね備えています。そのためにどれだけ努力をしたかも知っています。私は、そんなあなたが人として好きだった。

たとえば、どうしようもないくらい気が合わなくて嫌いな人がいたとして、その人を-100の位置に置きましょう。次に、好きで好きでたまらなくて今すぐにでも一緒になりたい唯一無二の相手を+100の位置に置きましょう。そうすると、異性としてのあなたは+100の位置にいます。だけど、人としてのあなたは+101の位置にいます。ここで大事なのは、お互いに愛し合っていた異性は別れることがあるけれど、お互いが好きだった人と人は別れることはほぼありません。別れかたの劇的さ、別れたときの喪失感、事の重大さは、前者と後者で圧倒的な差があります。とても長い時間このことを考えて、私はこの差を確信しました。だから、異性としてのあなたと付き合うわけにはいかない。人としてのあなたを失う分には、おそらく異性としてのあなたを失ったとしてもしょうがないと思えるけれど、異性としてのあなたを失ってしまえば、人として大好きなあなたをも失ってしまいます。それだけはどうしても避けたい。

終わりが絶対に嫌だから最初から始めないほうがいい。

だから、私はあなたに好かれるのが怖かった。

ごめんなさい。

それなのに私は、なおあなたを独り占めしようとして、困らせてしまったわ。

だってあなたが私をわざと悲しませるようなことを言うから。そんなあなたを許したくなかった。あなたがそんな人だと思いたくなかった。だからあなたと離れたくないって伝えたくなっただけなの。

つまりそれが「思わせぶり」だったのね。

私にはあなたを止める権利なんてないわ。あなたを私のそばにつなぎとめておくなんて、こんな非人道的で利己的なことはないわ。本当にごめんなさい。

「友達以上恋人未満」ってこれなのね。あなたにそんな俗っぽい言葉使いたくなかったわ。

 

もっともっと早くあなたと出会っていればこうはならなかった。あなたに好かれることが幸せで、私もあなたを好きになって、ふたりで一緒になれたでしょう。

もしくは、あなたを異性として好きになることなく、人として尊敬しながら生きていくことができたでしょう。そう考えると、異性としてのあなたとの出会いはすごく運命的だったと言わざるを得ません。

もし許されるのならば、「恋人でないけれど特別な関係」を築きたい。(語弊を避けるために断っておくけれど、他意は全くありません)

 

 

好きだと言ってくれたあなたに、私が投げたのは避けようのない鋭利な刃でした。もちろん不本意です。だけどその何百倍も不本意で理不尽な結果に立ち尽くすあなたを、私は想像しました。えぐられた心の刺し傷から私への思いが滴り落ちないように必死におさえているあなたの姿を、何度も感じました。

あなたは何度も何度も好きだと言ってくれました。

その度に私は、足元に落ちた血まみれの刃を拾い上げ、まるで私の気持ちとお互いの状況を確認するように、何度も何度も投げ続けました。

そのうちあなたは好きと言わなくなり、もう好きなんて言わないから安心してねと言うようになりました。まるで好きであってはならないことを自分に言い聞かせるように。

 

あなたがそんな私に対して復讐心を燃やすことなど、想定内でした。今ではどんな復讐も受けるつもりでいます。

だって私があなたにした仕打ちに勝るくらい酷いことって、優しいあなたにはたぶんできないでしょうから。

 

あなたがもしよければ、これからも今までみたいに仲良くしてくれると嬉しいな。

これは、私の人生におけるとっても素敵な出会いを失ってしまわないための、最悪だけど最善の選択なのです。

 

とっても好きです。でも好きではいけないのです。

ごめんなさい。